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ウナギと日本人

category : メールマガジン2016 2016.9.30 

暑さ寒さも彼岸まで、という季節の慣用句通りになるのには、
まだもうしばらく残暑を覚悟しなくてはいけないようですね。
みなさん体調管理には十分お気をつけください。

さてその猛暑が始まりを迎えた7月下旬、「土用丑の日」の10日ほど前に
新聞やテレビで一斉に取り挙げられていました「近畿大学発のナマズ重」(2200円)、
ディナー用に「近畿大学発のナマズ蒲焼き」(2000円)が大手量販店に提供が開始されたというニュースから
本家本元のウナギの先行きが危うい状況なのだということを改めて強く感じました。

そこで二ホンウナギが「レッドリスト」の「絶滅危惧種」に指定とした環境省の記載を思い出し、
日本の食文化に於けるウナギと我々日本人はなぜウナギが好きなのか?という疑問を感じ、
近所の書店で手に入れた図書『ウナギと日本人”白いダイヤ”のむかしと今』 筒井功の著書から
私と同じように感じておられる皆さまにも参考にして頂けたらと思います。

そして日本人は、文句なしに世界一のウナギ好き国民であり、全世界で捕獲あるいは養殖されているウナギの
ざっと七割は日本人の胃袋に収まっているといわれているようです。
台湾や中国の養殖池で育ったウナギも、自国で消費する量はごくわずかで、大半は日本に輸入されています。

まず、食文化に於けるウナギの歴史は、縄文時代の貝塚からも折りおりウナギの骨が発掘されていることから、
その当時すでに食用として利用していたと思われるようです。

文献上の初出は、『万葉集』に見える大伴家持の歌、

〈石麿にわれ物申す夏痩せに良しといふ物ぞ鰻取り食せ〉

であり、この歌によって、八世紀の人々(日本)ではウナギを夏ばてに有効なスタミナ食だと考えていたことが
はっきりとしているようです。

本によるとウナギは、たんぱく質の含有量で牛肉、豚肉、鶏卵などに匹敵し、
脂肪分ではそれらを大きくしのいでいるようで、さらにビタミンAがきわめて豊富で、
ほとんどの食材をはるかに上まわっているそうです。
むろん古代人がそんなことを知るはずはなく 経験的に体の滋養になることに気づいていたのでしょう。

しかし、それを土用の丑という特定の日に結び付けるようになったのは、
ごく新しく江戸時代も中期以降のことらしいです。
一説には、ウナギと食文化を取り上げた本や印刷物が、まず紹介しているのは平賀源内(1728~1780年)の関与です。
源内が ある鰻屋に宣伝看板を書くことをたのまれ、その日がたまたま土用の丑であったから
「本日、土用丑の日」と大書して店頭に掲げたところ大当たりして、こののち一般化したというのですが、
それを裏付ける文献・記録は、いっさい残っていないようです。
源内は、蘭学者、医者、戯作者、発明家など、いくつもの顔をもつマルチタレントであった。
そのような多彩な才能が、従来はなかった習俗の出現と結びつけられ、先の伝説を生んだのでないでしょうか。

蒲焼きの起源
今日、日本でのウナギ料理といえば、さながら蒲焼き一色の感があります。
他のウナギ料理は食べたことがないという人も多いのではないでしょうか。
しかし、つい何十年か前までは、必ずしもそうではなかったようです。
昭和も末年ごろまでの高知市周辺のウナギ小売店では、むしろ白焼きの方が一般的であったようです。
とにかく白焼きは、刺身のようにわさび醤油で食し、あっさりしていて、こちらを好む人も少なくないようです。

いずれであれ、いまや蒲焼き抜きに日本のウナギ料理は、ひとことも語れなくなっておりますが、
この食べ方は一体いつごろ、どんないきさつで始まったのでしょうか。
「かばやき」なる言葉が初めて文献に現れるのは、『鈴鹿家記』応永6年(1399年)6月10日条の、
〈上座敷14人朝振舞、汁(中略)鰻かは焼・鮒すし・かまぼこ・香物・肴種々〉だとされ、
蒲焼きの名の由来は諸説がありますが、ウナギを丸のままに串刺しして焼くとき(当時の焼き方)に、
形がガマの穂に似ていることから、その名が付いたとすることは明らかだといえるようです。

このように日本人が好んで食すウナギの大量摂取が始まったのは、そんなに古いことではなく、
せいぜい昭和30年代からで、それまでは、何か特別な日に食べるご馳走であったのですが、
経済の高度成長ととともに、どんどんと消費量が増え、まず養殖用稚魚(シラスウナギ)の
、次いで親ウナギの輸入量が上昇し、その結果、平成11年の秋以降には活鰻相場が
キロ当たり1000円を割る暴落を招き、出荷時の平均は一匹が200グラムほどなので、
一匹の卸値がわずか200円前後となり、このころ一人の日本人が年に五匹のウナギを口にしていたようです。

ところが、それから10年余りのち、平成25年には稚魚(シラスウナギ)一匹で600円にも暴騰するようになっています。
それくらい目に見えて、資源が枯渇してきたので、国際自然保護連合によって、
二ホンウナギが絶滅危惧種に指定される可能性が現実のものとなる日は遠くないかもしれません。
現にヨーロッパウナギは、ひと足早く「ごく近い将来、野生で絶滅する危険性がきわめて高い」として、
「絶滅危惧1A類」に分類されています。

日本でも諸外国でも、資源は無限のように見えた時代から、ここに至るまで半世紀もたっていません。
その急変の原因は、おおかたウナギ大好物の日本人が招いていると言っても過言ではないと
著者の筒井功さんは言っておられます。

まぐろの完全養殖を成功させた近畿大学が「ナマズの蒲焼き」をウナギの代用食として開発するのには、
まだウナギの完全養殖が成功(採算化)の目処がついていないことの裏返しを証明しておりますが、
一日も早くウナギの生態究明を目指してもらい、さらに受精卵からの完全養殖の確立がされますことを切に望みます。

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